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2025.07.02

経歴詐称

 会社(派遣元)から経歴詐称を促され、派遣された企業(派遣先)で仕事についていくことができず、精神疾患を発症し退職に追い込まれた元社員が会社に損害賠償を求めた裁判、派遣元企業損害賠償訴訟が佳境を迎えています。

 

 この事件は、会社がIT業界未経験の男性を「職歴5年のエンジニア」と偽って大手企業に派遣したことが始まりですが、興味深いのは、会社側は「IT業界では経歴詐称は一般的である」と、裁判においても開き直っていることです。

 

 裁判では当然そのような主張は受け入れられず、「取引先に対する詐欺行為により利益を得るようにするもの」として、会社側の賠償責任を認め、代表らに254万円の支払いを命じました。会社側は控訴しましたが、高裁は更に元社員の逸失利益も認め、賠償額は336万円に引き上がりました。弱り目に祟り目とはこのことです。

 

 会社側は上告していますが、上告審は基本的に事実認定の見直しは行われず、憲法違反や判例違反を審理しますので、ひっくり返すのは難しい気がします。

 

 この事件は派遣元からの強要なので同じではないですが、転職活動の際に用意する職務経歴書の中身や、面接の場において自分を大きく見せたくなる心理は少し理解できます。では、事実以上に自分を大きく見せる行為である経歴詐称が採用後に発覚した場合、会社側は経歴詐称を理由に従業員を懲戒処分できるのでしょうか。

 

 経歴詐称とは、虚偽の学歴、職歴、保有資格を申告することや、本当の経歴を隠すことをいいます。就業規則で経歴詐称を懲戒項目の一つとして定めていることは珍しくありません。つまり、多くの会社では経歴詐称は懲戒処分の対象であり、程度によっては懲戒解雇処分もあり得ます。

 

 しかし、「程度による」というのが重要なポイントで、詐称の悪質性、企業秩序への影響などを個別に判断する必要がありますので、経歴詐称していたからといって、すぐに重めの懲戒処分ができるわけではないのです。

 

 経歴詐称が発覚したときの怒りで強い言葉で叱責してしまうと別の問題が起こりかねません。冷静な対処が必要です。

 

名古屋支店

特定社会保険労務士 山口征司

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