2025.08.04
処遇改善等加算は最低賃金に含めてよい?現場が知るべき“現実解”
最低賃金の全国平均が1,100円超へ
全県1,000円超えが現実に?最低賃金議論が大詰め
令和7年度の最低賃金改定をめぐる議論が、いよいよ最終局面を迎えています。
いまの平均から6.0%の引き上げで、金額では63円の上げ幅となる1,118円で最終調整に入ったようです。(8月1日現在)
最低賃金の全国平均は初めて1,100円を超える見通しで、
更に「全都道府県で1,000円以上」が達成されるかも大きな注目点です。
最低賃金上昇が“死活問題”になる業界もある
最低賃金については「上がって当然」「賃上げは国の責任」という声もありますが、
現場では一様に歓迎されているわけではありません。
特に、保育所や認定こども園においては、
数十円の引き上げでも年間数十万円規模の人件費増につながるため、経営に与える影響は深刻です。
公定価格制度の“ねじれ”に苦しむ保育の現場
一般的な保育所や認定こども園は、「公定価格(=国が定めた報酬)」で運営されています。
つまり、最低賃金が上がっても、それを価格に転嫁する自由がないのです。
毎年、夏から秋にかけては「最低賃金が上がるが、どう対応すべきか」というご相談が多く寄せられます。
もちろん、どの業界であっても最低賃金は法令により遵守しなければなりません。
最低賃金と比較する「賃金」に含まれるもの・含まれないもの
含まれないもの | 含まれるもの |
---|---|
賞与 | 毎月固定的に支給される基本給 |
時間外手当(割増部分) | 固定的に支給される手当(例:特殊業務手当) |
家族手当、通勤手当など | 時間単位で定額支給される加算額 |
処遇改善等加算は最低賃金に含めてよいのか?
では、保育業界に特有の「処遇改善等加算」はどう扱うべきでしょうか。
これは実務上、非常に誤解の多いポイントです。
結論から言えば――
処遇改善等加算が毎月固定的に支給されている場合、
または「1時間あたり100円加算」など明確な単価で支給されている場合には、
最低賃金の比較対象に含めることができます。
国のスタンス:「望ましいが、義務ではない」
この点について、平成30年の厚生労働省のQ&Aには次のような記載があります。
「当該加算額が、臨時に支払われる賃金や賞与として支払われておらず、
予定し得る通常の賃金として、毎月労働者に支払われているような場合には、
最低賃金額と比較する賃金に含めることとなる。
しかし、加算の目的等を踏まえ、最低賃金を満たした上での賃金引き上げが望ましい。」
つまり、国の基本姿勢は以下のように整理できます
処遇改善等加算を含めても、最低賃金違反にはならない
ただし、本来の目的を考えれば“含めない形”でクリアするのが理想
実務対応:現実と理想のバランスをどう取るか
実際の保育現場では、「加算を含めない形での最低賃金クリア」は簡単ではありません。
財源が限られている中で、処遇改善等加算を除いた給与水準を確保するには、工夫と支援の両輪が必要です。
そのため、処遇改善等加算を含めて最低賃金を満たしていることが法令違反にはあたらないこと、
そして「含めない形」が“努力目標”であることを理解しておくことが大切です。
専門家のサポートが不可欠な時代に
保育業界においては、制度や加算の構造が複雑で、
単純に「時給をいくらにすればいいか」だけで済む話ではありません。
弊所では最低賃金改定に伴う賃金設計や助成金活用のご提案を、
またゆびすいグループとして資金繰りや人件費比率の調整など、数字面からのサポートも提供しています。
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名古屋支店
特定社会保険労務士 山口征司
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