2025.10.29
パン1個で懲戒免職!?――職場の“持ち帰り事件簿”
名古屋市内の公立小学校で、給食調理員の女性が食材を持ち帰ったとして懲戒免職処分を受け、退職金(1000万円超)も不支給となりました。
女性はこの処分を不服として裁判を起こし、先日結審しました。
事件の経緯
令和4年、同僚から「不審な行動」の報告を受けた学校が調査したところ、冷凍庫にあるはずのパンや油揚げが女性のカバンから発見されました。
女性は非行を認め謝罪しましたが、教育委員会は懲戒免職と退職金不支給を決定しました。
職場の「持ち帰り案件」は意外と多い
実は、こうした備品や物品の持ち帰りは決して珍しいものではなく、
私自身、社労士として今回と類似の事例の相談を受けたことは一度や二度ではありません。
給食の食材に限らず、切手やトイレットペーパー、さらには上司のロッカーの500円玉貯金まで——「そんなものまで?」と思うような事例も実際にありました。
そして、どの現場でも共通しているのが次の2つです。
「まさかあの人が」という人物がやっていた
最初は少額から始まり、徐々に大胆になっていく
現場を見てきた立場としては、「人は環境や心理的ハードル次第で行動が変わる」という現実を痛感します。
最初はちょっとした出来心でも、繰り返すうちに罪悪感が薄れ、行動がエスカレートするのです。
就業規則は性善説で作ってはいけない
会社の金品や備品の持ち帰りは言うまでもなく懲戒処分の対象です。
事実確認後は就業規則の服務規定や懲戒項目に沿って処分を行いますが、規定に具体的な条文がない場合「準ずる程度の不都合な行為」として処理します。
しかし、この「準ずる程度」は解釈の余地が大きく、労働者側の反論を招く可能性があります。
故に、就業規則は「そんな人いないだろう」と思うケースまで想定して作成しておくことが重要です。
裁判の結果
名古屋地裁は次の点を重視しました
食材の廃棄時期が近く、財産的損害が軽微
行為は1回のみで、常習性を示す証拠なし
これらを理由に、懲戒免職と退職金不支給は「重すぎる処分」と判断し、取り消しを命じました。判決は確定しています。
判決後も残る人間関係のしこり
裁判後、女性は職場に復帰しましたが、同僚からは「安心して一緒に調理できない」と受け入れられなかったといいます。
判決はあくまで処分が重すぎるとしたもので、行為自体が許されたわけではありません。
人間関係の修復は法律だけでは解決できない、難しい課題を残しました。
「まさかあの人が」は、どこにでもある
私が昔、飲食店で働いていた時も、エース級のバイトがレジから10万円を抜いたり、更衣室の服を盗んでいたことがありました。
普段は誰よりも明るく、信頼も厚かった彼が、そんなことをするとは誰も思っていませんでした。
やがて警察沙汰になり、怖くなったのか本人が自白しました。
それまで“頼れる仲間”だった人が、一夜にして“加害者”になる——その変わりように、ただ呆然としたのを覚えています。
人は環境や心理状態によって、いとも簡単に一線を越えてしまうことがある。
だからこそ、職場のルールは「そんなことする人いないでしょ」と思うケースまで想定しておく必要があります。
名古屋支店
特定社会保険労務士 山口征司
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