2025.12.03
人手不足時代、定年引き上げは経営の選択肢になるか
全日本空輸株式会社(ANA)は2027年4月から、定年年齢を現行の60歳から65歳に引き上げると発表しました。
60歳以降も正社員として処遇することで、専門性の高い人材を確保し、若手への技能伝承に活かす狙いがあります。
日本企業における定年制度の現状
以前のコラムでも触れましたが、日本企業の約8割は60歳を定年として設定しています。
その後については「高年齢者雇用安定法」により、希望者を65歳まで雇用する制度の導入が義務付けられています。
この「65歳までの雇用確保措置」には主に次の3つの方法があります。
定年の廃止
年齢制限をなくし、本人の能力や意欲に応じて働ける仕組み。定年年齢の引き上げ
定年を60歳から65歳に変更するなど、定年そのものを見直す方法。雇用契約は正社員として継続されます。継続雇用制度(勤務延長・再雇用)
60歳定年を維持しつつ、
- 勤務延長:定年に達しても契約をそのまま継続。
- 再雇用:一度退職後、新たに契約を結び直す仕組み。
多くの企業は「継続雇用制度」を選択
厚生労働省の調査によると、導入状況は次の通りです。
定年制の廃止:3.9%
定年年齢の引き上げ:28.7%
継続雇用制度:67.4%
つまり約7割の企業が「継続雇用制度」を導入しています。
私の肌感覚ですが、中小企業の多くはその中でも「再雇用制度」を選択しているケースが多いように思います。
定年引き上げを検討する意味
一方で、日本の生産年齢人口は減少傾向にあり、この流れは今後も続くと予測されています。
再雇用制度では、労働条件が定年前より下がる一方で仕事内容は大きく変わらないことも多く、その不均衡から裁判に発展する例も見られます。
これに対し、定年の引き上げは雇用契約が継続するため、条件設定をめぐる検討は必要になるものの、より安定的な制度設計につながる可能性があります。
労働力不足が進む中で、定年引き上げを現実的な選択肢として考える意義は大きいでしょう。
助成金の活用も視野に
定年を引き上げるには就業規則の改正が必要です。
この点で活用できるのが 「65歳超雇用推進助成金」 です。
就業規則改正にあたり、社会保険労務士などの専門家に依頼して経費が発生した場合、その一部を助成する仕組みです。
助成金については、当コラムでも度々「不正受給」の問題を取り上げてきましたが、
この制度は就業規則の改正を支援するという本来の目的に沿った仕組みであり、適正に活用すれば非常に有効です。
定年をどう設計するかは、企業の未来を左右する大きなテーマです。
もっとも、社員に『まだまだ働ける』と言われたら、経営者自身も健康第一で長く働ける準備が必要かもしれませんね。
名古屋支店
特定社会保険労務士 山口征司
定年年齢の引き上げは就業規則の改正が必要です
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