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2025.11.10

令和キッズがやってきた ― 試用期間と解雇をめぐる一件

もしあなたの会社に、これまでの“常識”が通じない新入社員が入ってきたらどうしますか?
今回は、令和入社の新入社員(以下、Aさん)をめぐり、

会社が試用期間の延長と解雇を行った結果、法廷で争うことになったケースを紹介します。

令和の新入社員Aさん

老舗メーカーに入社したAさんは、内定式を欠席し、懇談会もアルバイトを理由に不参加。

入社前説明会ではラフな服装で参加し、上司の説明を遮って持論を展開するなど、初期から「個性的」な振る舞いが目立ちました。
入社後も態度は変わらず、研修では作業がうまくいかないと大声を上げ、営業部配属後には先輩の質問に「ネットで調べてください」と返答。

わずか2ヵ月で職場は対応に苦慮する状況となりました。

試用期間の延長と“追い出し部屋”

会社も頭を抱え、「この会社では続けられないのでは?」と退職を勧めましたが、Aさんは拒否。

Aさんは、その頃から面談を録音しはじめます。
会社は試用期間を1ヵ月延長し、7月から総務部付けに。仕事を与えず事実上の“待機”状態に置かれました。
ところがAさん、毎日まじめに出社し、机で簿記の勉強に励んでいたそうです。

解雇、そして法廷へ

会社は最終的に、法に定められた手順を踏み、解雇予告通知を出した上で9月末に解雇を実施。
Aさんはこれを不服として労働審判を申し立て、折り合いがつかずに裁判に移行しました。

裁判のポイント:形式より「中身」

労働基準法では、解雇の際に「30日前の予告」または「30日分の賃金支払い」が義務付けられています。
ただし、これは解雇の法的な手順に過ぎず、その解雇が有効か無効かは別の話です。
裁判所が重視するのは次の2点です。

  • 客観的合理性:会社として、改善のための指導や配置転換など、可能な手を尽くしたか。

  • 社会的相当性:世間一般の常識に照らして、その解雇が不当ではないか。

本件では、会社が入社後研修の時点からAさんの問題行動を把握していながら、直接的な指導や改善支援を十分に行っていなかった点が指摘されました。
また、試用期間の延長についても「退職に応じさせる目的があったと推認される」とされ、結果として解雇は無効との判断が下されました。
さらに、Aさんに対する“追い出し部屋”も人格権の侵害にあたるとして、会社に55万円の支払いを命じました。
双方が控訴しましたが、最終的には和解となり、会社は解雇を撤回しました。

法と感覚のズレ

現場では「もう限界だ」「これ以上は無理だ」と感じることもあります。
しかし、法的な判断では“判例に照らし合わせてやるべきことをすべてやったか”が問われます。
つまり、どれだけ会社が苦労しても、「感じ方」ではなく「指導の証」が重要になるのです。

もちろん、会社側にも言い分はあります。
日々の業務の中で限られた人員・時間の中、何度も面談やフォローを行い、改善を期待して努力しているケースは少なくありません。
それでも、最終的には「どこまで具体的に支援の手を差し伸べたか」が判断の基準になります。

たとえば——

  • 指導・教育の実施(記録を残す)

  • 配置転換などの代替措置の検討

  • 面談記録や評価基準の明確化

こうしたステップを丁寧に踏むことが、結果として会社を守ることにもつながります。
結局のところ、“会社がどこまで本気で支援しようとしたか”を、後から裁判所に分かってもらう作業になるのです。
そのためにも、日々の記録ややり取りを丁寧に残しておくことが大切です。

令和キッズとの向き合い方

Aさんのような令和世代の新入社員のことを揶揄して、“令和キッズ”という言葉があるそうですが――
“令和キッズ”は、価値観や働き方のスタイルが大きく異なる世代です。
「非常識」と決めつける前に、対話の方法をアップデートすることが、企業のリスクマネジメントにもつながります。
法務の観点からも、“違い”を理解しながら、適切な指導とその証を積み重ねる姿勢が求められています。

 

名古屋支店

特定社会保険労務士 山口征司

 

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