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2025.10.27

“モームリ”家宅捜索にみる、退職代行と非弁行為の境界線

退職代行サービス「モームリ」の運営会社が、弁護士法違反の疑いで警視庁の家宅捜索を受けました。
若者を中心に利用者が増えていたサービスだけに、今回のニュースは多くの注目を集めています。

退職代行サービスとは?

もはや説明不要かもしれませんが、ざっくり言うと「本人に代わって『辞めます』と会社に伝えてくれる」サービスです。
料金はおおよそ2万2000円(アルバイトは1万2000円)。
社労士的には「もう少しスマートな方法もあるのになぁ」と思わなくもないですが、今回はその話ではありません。

問題となった“非弁行為”

今回、運営会社が疑われているのは次の2点です。

  1. 弁護士への紹介料の受け取り

    退職希望者を弁護士に紹介し、その報酬を受け取っていた可能性。
    紹介そのものは違法ではありませんが、報酬を得ると弁護士法72条の非弁行為に該当するおそれがあります。
  2. 退職をめぐる会社側との法的交渉

    弁護士資格がないにもかかわらず、依頼者の代理人として会社と交渉した疑い。
    これは明確に非弁行為となる行為です。
    つまり、“代行”と“代理”の線を越えてしまうと、違法の可能性が高くなるということです。

社労士の現場でも他人事ではない

実はこの非弁行為、社労士にも無関係ではありません。
顧問先で「トラブルになっている従業員と直接話してもらえませんか?」と頼まれることがしばしばあります。

しかし――
特定社会保険労務士として紛争解決手続代理業務を行う一部の場合を除いて、

社労士が「お客様の代理人として業務を行う」ことは法律上できないのです。

できるのは「同席して状況を見守る」や「事実関係を説明する」まで。
その線を超えると、社労士も非弁リスクに踏み込むおそれがあります。

時代とともに変わる“退職”の形

昭和世代の私は、「辞めます」とひと言伝えれば終わり、という感覚が正直あります。
でも時代は令和。
人間関係も職場の構造も変わり、「辞めます」を他人に頼むのも一つの選択肢になりました。

退職代行というサービスが生まれた背景には、職場コミュニケーションの変化もあるのかもしれません。
経営者も私たち専門家も、「今どきの辞め方」に合わせて、知識も考え方もアップデートしていく必要がありますね。

企業ができるリスク回避と対策

社員が退職代行を利用せざるを得ない職場には、必ず「伝えづらさ」があります。
会社としては、退職の意思を安心して伝えられるルートを整備することが大切です。

  • 「退職の申し出は直属の上司ではなく人事へ」
  • 「メールやLINEでの申し出もOK」

といった仕組みがあるだけで、トラブルを減らすことができるかもしれません。

モームリ事件は、“時代のニュース”であると同時に、
企業がコミュニケーションを見直すきっかけとしても重要な出来事と言えるでしょう。

おまけ話

実は私も昔――まだ社労士になる前の話です。
退職を言い出せずに悩んでいた美容師をしている友人の代わりに、美容院の店長宛の退職メールを代筆して送ったことがありました。
当時は「助けてあげた」くらいの気持ちでしたが、
今思えば……

「あれ、完全に代理交渉の入り口やん」と、ちょっと冷や汗です(笑)

あの頃は善意。
でも今なら、ちゃんと線を引く。
“モームリ事件”は、そんな意識をもう一度確認させてくれるニュースでした。

 

名古屋支店

特定社会保険労務士 山口征司

 

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